2015/09/25 更新過失相殺

重大な結果と過失相殺

名古屋地裁 平成25年6月28日判決

交民集46巻3号856頁

バイクと乗用自動車が交差点で衝突し、バイクに乗車していた男性被害者が両下肢の全廃等の後遺障害を負い、自賠責の事前認定手続で後遺障害等級1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」に該当すると判断されました。

この裁判では、過失割合、後遺障害逸失利益、将来介護費等が大きな争いになりました。ここでは、そのうち過失割合に関する裁判所の判断を御紹介します。

(過失割合)
衝突時、バイクは直進中・乗用自動車は右折中という状況でした。この場合、別冊判例タイムスの表によると、過失割合は15対85になるはずです。当然、乗用自動車側はそのように主張しました。

被害者は、乗用自動車がバイクの直近で右折を開始したと主張し(直近右折)、過失相殺を行うべきでないと主張しました。

裁判所は、被害者による乗用自動車の直近右折の主張は認めませんでした。しかし、乗用車が右折を開始したときに被害者がバイクの急ブレーキをかけても衝突が避けられなかった可能性が否定できないと述べ、被害者に軽度の前方不注視が認められるとしても、乗用車運転者の前方不注視の過失が著しく大きく、また、結果が重大であることから、過失相殺を行うべきではないと判断しました(加害者100、被害者0)。

直近右折が認められなければ、本来、過失割合は直進二輪車15・右折乗用車85になるはずです。結局、裁判所が過失相殺を行わなかった理由は、結果が重大であることが重視されたからであるとみるべきです。

たしかに、法律上、交通事故事案において裁判所は過失相殺処理を行ってもよいし、行わなくてもよいことになっています(民法722条2項)。しかし、交通事故事案において、被害者にも一定程度の過失があると判断したにもかかわらず、裁判所が過失相殺処理をしないということは非常に珍しいです。しかしながらこの裁判は、ある取扱いが通常だからといって、最初から諦めてしまうことは禁物であることを教えてくれます。

ただし、前提として、被害者の過失が大きくないことは必要であるといえそうです。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。