高次脳機能障害と入院付添費、将来介護費、家屋改造費
大阪地裁 平成24年7月25日判決
自保ジャーナル1884号
今回紹介する判例は、高次脳機能障害と①入院付添費、②将来介護費、③家屋改造費について判断をしたものです。今回の裁判例では、高次脳機能障害(遷延性意識障害等1級1号)を残す29歳男子につき、①入院付添費、②将来介護費、③家屋改造費が損害として認められるか、認められるとして、その損害額はいくらとすべきかが争点の一つとなりました。
裁判所は、各証拠や裁判における全ての事情を考慮して、争点につき、以下のとおり判断しました。いずれの損害についても賠償を命じました。
①入院付添費について
被害者が入院した各病院は、完全看護体制が取られており…、医師が親族に対して付添を指示したと認めるに足りる証拠はなく、主要な看護は、病院スタッフが行っていたと認められる。
しかし、証拠によれば、親族は毎日のように面会に訪れ、被害者のそばに付添い、ときには声をかけたり、体をさするなどしたこと、食事の介助をしたり、被害者に刺激を与えるために被害者を車で散歩に連れて行ったりしたことが認められる。これらの事実に照らせば親族・近親者の付添い看護について一定程度の相当性や必要性及び付添い看護の実体があると認められ、近親者の付添費としては日額6000円を相当と認める。
②将来介護費について
自宅介護を受けるようになって以降も、症状としては、さらに回復はみられたものの、障害は依然として残り、意識レベル・集中力・意欲の低下が慢性化していること、四肢の運動障害があることにより、日常生活全般について常時介護が必要な状態であることについては変わりがないと認められる。
(このような)被害者の本件後遺症の内容及び程度、必要な介護の内容、現在の介護体制に照らすと、被害者の配偶者が67歳になるまで、おおむね近親者の介護で足りるが、被害者の配偶者の負担(被害者の配偶者は当時3人の子供を養育していました)を考えると、職業付添人の介護も必要であると認められる。
以上の事情を総合考慮し、近親者介護費用及び職業付添人介護費用として月額36万円を相当と認める。
③家屋改造費について
(被害者宅の間取り、被害者の将来の介護の計画について詳細に検討した上で)以上のように被害者を自宅で介護するには、車いすの移動にスペースが必要であることも併せ考慮すると、旧居宅を改造によって対処することが全く不可能とまではいえないものの、困難であるといわざるを得ない。したがって、被害者の介護のために居宅を新築することについて必要性及び相当性が認められる。
(次に、新居宅の設計、配置について詳細に検討した上で)以上総合考慮し、上記費用(新居宅の被害者の介護関連の設備に要する工事費1396万円)の65%である907万4000円を被告に負担させるのが相当である。
【コメント】
①入院付添費について
入院の際に近親者が付き添う必要があることがあります。この場合、医師の指示等により必要がある限り損害として賠償されます。今回、加害者側は、病院における看護体制が整っているため賠償の必要がないと主張しましたが、親族が実際に付き添いの際に行っていた内容を検討して、必要性を認定し、一定額を損害として認定しました。
②将来介護費について
後遺障害が残った後も、近親者を中心に、被害者を自宅等で介護をしていくことになります。この際の介護に要する費用も損害として賠償されますが、その金額の評価が争われることが多くあります。近時、本件のように、(ⅰ)職業介護と親族介護の併用や(ⅱ)親族介護者が老齢化した場合に職業介護に移行することを前提として算定を行う裁判例が増えています。
③家屋改造費について
将来の介護の際に、現在の居宅では介護が不可能ないし、困難で、改造の必要がある場合には、事故により改造を余儀なくされたものである以上、賠償がされます。この際には、後遺障害者向け仕様にしたことによる工事代金増額分が賠償の基本とされることが多いです。もっとも、本件のように改造の必要性と相当性(そのような改造が過大なものでないか)を検討した結果、あるいは工事部分により同居人も利益を受ける場合、一定割合の減額がなされることがあります。エレベーターの設置などはその例です。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。