休業損害・逸失利益(高齢者の家事労働)
名古屋地裁 平成27年9月30日判決
自保ジャーナル1958号
今回紹介する裁判例は、交通事故によって後遺症を負った80歳女性の休業損害及び逸失利益の算定方法(家事労働)について判断した裁判例です。
一般的に、同居の家族のための家事労働をおこなっていた女性の休業損害や逸失利益を算定する場合、女性労働者の全年齢平均の賃金センサス(年収の統計資料のことです)によることが原則です(最高裁昭和49年7月19日判決)。平成25年のデータですと年収353万9,300円が基準になります。
一方、高齢者の家事労働については、被害者の方の状況に応じて基礎収入が認定されます。本件では、女性70歳以上の平均賃金を基礎収入とすべきとされました(基礎収入として年収289万6,900円を認定しました。)。
上記認定の理由として、裁判所は以下の事情を挙げています。
- ①被害者本人は自立して日常生活をおくっていたこと
- ②孫と同居し、孫の身の回りの世話(食事の支度、掃除、洗濯など)をしていたこと
保険会社側は、「80歳と高齢であったことなどからすると、原告の家事労働はもはや自ら生活していくための日常的な活動と評価するのが相当」「仮に原告が家事従事者と認められた場合であっても、高齢であり、その労働が通常の主婦の労働量より少ない」などと主張していたようですが、いずれも裁判所は主張を退けています。
保険会社側は、高齢者の家事従事者に対し、一律に上記のような主張をぶつけてきます。被害者側としては、被害者の方が具体的にどのような状況にあり、そのような家事労働を分担していたのかを詳細に主張立証していく必要があります。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。