過失の判断
東京高裁 平成27年8月26日判決
自保ジャーナル1956号
過失の有無の認定やその責任割合の判断は、どのような形態の事故であったのかによって、ある程度定型化して行われています。事故形態によって基本過失割合が求められ、それを出発点として、その基本過失割合を修正する要素はないかという検討を行うというやり方で決められることが多いです。
しかし、過失というのは、本来、結果を予見することができたか、予見することができたとして、結果を回避することができ、そのための行動をとったかという観点から判断すべきものです。基本過失割合は、こうした観点を考慮して定められているものですので、これを出発点とすることにはある程度の合理性はありますが、本来、事案ごとに異なるはずですので、常に妥当な結論に至るとは限りません。
この裁判例での事案は、歩車道の区別のある道路において、道路を横断している歩行者とトラックが衝突したというものでして、別冊判例タイムズ38の【34】の図に近いです。そうであれば、基本過失割合は歩行者20・トラック80です。基本過失割合を出発点とし、修正要素を考慮するというやり方では、トラックの過失がゼロになることはなさそうです。
ところが、この事案で裁判所は、トラック運転手に過失はないとしました。事故態様に関する事実認定は、次のとおりです。
- トラックは、時速約60キロメートルで走行していた。その停止距離は短くても32.75メートルである。
- 歩行者が道路を横断する意図があるとトラック運転手が予測できたのは、歩行者が車道へ入ったときである。この事案では、それは衝突の約0.8秒前から約0.6秒前だったが、その時点でトラックは衝突地点から約13.4メートルから約10メートル前の地点にいた。
- したがって、トラック運転手がこの事故を予見することができた時点では、その停止距離から考えても、衝突の結果を回避することはできなかった。
このように事故当事者の位置関係やそこに至る時間を具体的に立証することによって、結果予見可能性や結果回避可能性がそもそもないという判断に導くことが可能だという、いわば当然のことを、改めてこの裁判例は教えているといえそうです。
ところで、前記事実認定はかなり詳細で緻密だなと感じられるかもしれません。実は、トラックにはドライブレコーダーが設置されていて、これが証拠として大いに役立ちました。従来、事故態様の審理に用いる証拠といえば実況見分調書が主流でした。ドライブレコーダーは一般に普及しているとまではいえませんが、それほど高額なものではありません。ゆくゆくはドライブレコーダー映像を用いて事故態様に関する事実認定を行うというやり方が主流になっていくのかもしれません。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。