過失相殺なしの自転車事故
名古屋地裁 平成27年11月25日判決
自保ジャーナル1966号
今回は、自転車と歩行者の事故で、過失割合が争点の1つとなった裁判例をご紹介します。
被害者(女性 主婦)は、コンビニの出口から出て歩道に踏み出したところ、歩道を直進走行していた加害者(11歳 小学生)の自転車に衝突されたという事案です。被害者の左足と自転車の前輪が接触し、被害者は左下肢挫傷の傷害を負いました。
被害者は、コンビニの出入り口付近からとくに左右の歩道上を確認することなく歩き始め、左足を歩道上に踏み出しました。他方、加害者の自転車は、進路左側にあった電柱を回避して歩道右寄りを走行していたため、被害者の左足に衝突してしまいました。
本件では、被害者である歩行者に過失があるか、過失相殺をするべきかどうかが争点の一つとなりました。
被害者の過失について、加害者側は次のような主張をしていました。
被害者は、コンビニから出て歩道を横切るに際し左右の安全を確認する必要があるのにこれを怠った過失がある。被害者は、コンビニの店内からでも進行方向左側の歩道の状況は把握できたし、コンビニの出口から衝突地点までは数歩は歩く必要があったから、左側を確認することはできたはずである。本件事故直前、加害者の自転車は徐行していた。よって、本件では、むしろ被害者の過失のほうが大きいというべきである。
これに対して、裁判所では、おおむね次のような判断がなされました。
- 加害者は、歩道の中央から車道寄りを進行せず、歩行者が進路上にいたにもかかわらず一時停止を怠り本件事故を発生させた過失がある。
- 他方、被害者は、路外の店舗から歩道に入る際に左右の安全確認を怠ったということはできる。しかし、そもそも歩道の車道側を走行していなかった加害者の過失が大きいうえに、歩行者は本来、歩道上で自転車に対し注意を払う義務を負っていないと考えられることや、人の出入りの予想されるコンビニ前の路上であったことなども踏まえると、本件事故について、被害者の過失をとらえて過失相殺を施すのは相当ではないというべきである。
- よって、本件事故について被害者の過失による過失相殺は認められない。
自転車事故の過失割合については、事故態様によって基本的な割合はありますが、具体的な事故状況によって基本割合を修正して決めることになります。
そのため、自転車事故を起こしてしまった場合には、事故現場や自転車の写真を撮っておいたり、目撃者の連絡先をきいておく、警察に事故状況をしっかりと説明しておくなどの対処を事故直後にとっておくことが重要です。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。