2017/02/28 更新その他

損害賠償請求権の除斥期間の起算点

高松地裁平成27年12月17日判決

自保ジャーナル1968号

今回は、原告の損害賠償請求権の除斥期間の起算点は加害行為時である事故当日として、除斥期間の20年経過により請求を棄却した裁判例をご紹介します。

【事案】

昭和63年8月22日
 原告は、普通乗用自動車に衝突され、左股関節脱臼骨折等の傷害
平成2年10月18日
 自賠責12級7号認定の左股関節機能障害を残し症状固定
平成5年3月22日
 調停成立
平成21年2月
 左変形性股関節症と診断
平成24年7月
 左人工関節全置換術を受けたことから自賠責8級7号認定
平成24年11月5日
 症状固定
平成26年5月16日
 訴え提起

【裁判所の判断】

  • 原告は、平成2年10月18日を症状固定時期として左股関節部の機能障害についての後遺障害認定を受け、同日において、股関節に軽度の変形が認められ、変形性股関節症への移行も懸念されていたのであるから、原告の変形性股関節症及び本件後遺障害に伴う損害は、本件事故時に生じた損害が拡大したものであり、これらの損害が質的に異なるものとまではいえない。
  • 原告が本件で主張する損害を、その性質上、本件事故から相当の期間が経過した後に発生するものということはできない。
  • 原告の損害賠償請求権の除斥期間の起算点は、加害行為時である本件事故当日の昭和63年8月22日である

と認定し、原告の請求を棄却しました。

【コメント】

「除斥期間」とは、一定の期間内に権利を行使しないとその期間の経過によって権利が当然に消滅する場合の期間のことをいいます。

不法行為における除斥期間については、民法724条後段が、「不法行為の時から20年」と定めています。「不法行為の時」とは、原則は“加害行為の時”を意味します。ただし、「損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合」には、“当該損害の全部または一部が発生した時”となります。

裁判所は、年月の経過により股関節の変形が悪化し、平成21年になって左人工股関節全置換術を経て、症状固定の診断を受けたことを認めています。しかし、加害行為が行われた時に損害の一部が発生し、変形性股関節症への移行も懸念されていたことから、本件事故時に生じた損害が拡大したものであり、損害が質的に異なるものとまでは言えないとして、「相当期間が経過した後に損害が発生する場合」に該当しないとしました。

裁判所は、「相当期間が経過した後に損害が発生する場合」については、身体に蓄積された場合に人の健康を害することとなる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害を典型として考えているようです。

今回は、

  • 時効とは異なる除斥期間という制度があることについて
  • 損害の拡大に関する除斥期間の起算点の考え方について

参考になる裁判例と考え、ご紹介させていただきました。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。