過失割合に関して自賠法3条の規定を適用して被害者に有利に斟酌した事例
横浜地裁 平成29年2月22日判決
自保ジャーナル1999号
今回は、過失割合に関して自賠法3条の規定を適用して被害者に有利に斟酌した事例をご紹介します。
まず前提となる法律関係をご説明させていただきます。 自動車損害賠償法(通称自賠法)の第3条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。」と規定しています。
すなわち、自己のために自動車を運行の用に供する者は(これを運行供用者といいます。)は、その運行によって人を傷つけた場合、被害者が過失があったこと等を証明しない限り損害賠償責任を負うと規定されています。例えば、通常の民法上の規定では、賠償請求をする際、被害者が加害者に過失があったことを立証することとされていますが、自賠法3条では加害者が自身に過失がなかったことを立証するとされており、過失の立証責任が被害者に有利に逆転しているといえます。
本件は、信号機のある交差点で、原動機付自転車(被害者、原告)と乗用車(加害者)が出合い頭衝突しました。被害者は自身の侵入した際の信号が赤色であることを認めていました。一方、加害者は交差点手前で信号を確認した際には青であった、その後交差点侵入時に黄色表示に変わったと主張していました。被害者は、高次脳機能障害等の傷害を負い、自賠責で5級2号の後遺障害が認定されていました。
本件では、争点の1つとして、過失割合が争われました。
裁判所は以下のとおり、判断して、被害者に有利に過失割合を判断しました。
「自賠法3条によれば、被告が無過失であるとなるには、被告が赤色表示及び黄色表示(黄色表示となった時点で停止線前で停止するとかえって危険である場合を除く。)のいずれでも本件交差点に進入していないことを立証しなければならないところ、被告はその旨の立証ができていない。これに加えて、被告に有利となる過失相殺事由についても被告に立証責任があることになるところ、本件においては、被告が黄色表示で本件交差点に進入したことの立証もされていないから、結局、原告車両及び被告車両の双方が赤色で本件交差点に進入したことを前提とした過失割合によるべきこととなる」
「以上の事情やその他本件に表れた本件事故に係る事情を総合考慮すると、原告と被告の過失割合は、40%対60%とするのが相当である。」
本件で被害者は大変重い障害を負っており、過失割合が5%異なるだけでも賠償金に大きな影響を及ぼすことが予想されます。そして、青信号を確認していたという被告の言い分を前提にすれば、被害者(原告)の請求金額は大きく減殺されたものと考えられます。しかし、裁判所は自賠法3条の適用により、過失割合を被害者に有利に斟酌しました。 信号機のある交差点で双方青信号であったことを主張するケースなどは、過失割合の振れ幅が最も大きい一方で、ドライブレコーダーがある場合などを除いて当事者の供述などから判断せざるを得ず、立証が困難であることが多いです。このような場合に自賠法3条の適用による立証責任の所在が重要になると思われ、今回、参考になる事例としてご紹介させていただきます。
(文責:弁護士 粟津 正博)
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。