2018/03/12 更新脊髄損傷

自賠責1級1号四肢麻痺等を残す50歳男子の人身損害額を約4億3328万円と認定した事例

横浜地裁 平成29年7月18日判決

自保ジャーナル2008号

今回は、交通事故により、四肢麻痺等の後遺障害(自賠責1級1号)を残した被害者の、休業損害について解説します。(本件の争点は多岐に渡りますが、今回は休業損害の問題に絞って解説します。)

本件では、50歳男性が、信号のない交差点をバイクで走行中に、自動車と衝突し、外傷性くも膜下出血、急性硬膜外血腫、頭蓋底骨折・脳挫傷等の傷害を負い、結果として四肢麻痺等の自賠責1級1号が認定されました。

本件訴訟では、被害者はある会社(以下「A社」とする)のコンサルタントの地位にあったが、A社は事故後約4か月後には経営破綻状態にあり、事故後約9か月後に解約となりました。そこで、仮に被害者が本件事故に遭わなくても、継続的にA社から報酬がもらうことができなかったのではないか、という点が問題となりました。

これについて、裁判所は以下のような判断をしました。

まず、「A社は、本件契約時(※注:被害者とA社がコンサルタント契約を締結した時点)には、既に資金難に陥っており、平成25年3月の時点(※注:交通事故発生から約4か月後)で実質的には破綻状態に陥っていたのであるから、原告が、本件事故に遭わずにA社のコンサルタントの地位に就いていたとしても、同月以降は原告に報酬が払われていなかった可能性もあり、就任当初から、業績連動型賞与の支払と繰延株式報奨による利益を得られる可能性が低かったともいえる。

しかし、原告は、・・・、本件事故に遭うまでは、語学力や各事業で培った能力等でモバイル広告事業等において業績を残し、その業績が評価されて転職を繰り返してきたのであるから、A社が破綻状態に陥って報酬を支払えなくなっても、モバイル広告事業等の事業を行う企業に転職していた可能性が高い」と認定しました。

その上で、「原告においては、本件事故以降、A社が破綻状態となり、基本給さえ支払われなくなる状況になったとしても、同種事業を行う企業等に転職して収入を継続的に得ていた蓋然性は高いといえるが、A社の経営状況や、急な転職で従前と同程度の収入を継続的に得ることができた蓋然性は高いとはいえないことからすれば、休業損害は、基礎収入額を控え目に算定した」金額をベースにして計算すべき、と判断しました。

【コメント】

給与所得者の休業損害については、原則的に、事故前の収入を基礎として受傷によって休業したことによる現実の収入減とするとされていますが、例外的に、事故による受傷が原因で解雇され、あるいは、退職を余儀なくされたケースでは、無職状態になった以降も、現実に稼働困難な期間が休業期間とされます。
本件のように、事故後、会社が経営破綻し、契約が終了した場合であっても、当該被害者の能力や実績を考慮し、転職の可能性及び収入の継続性を判断します。裁判では、当該被害者の能力や実績をどのように立証していくかがポイントとなってきます。

(文責:弁護士 前田 徹

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。