12歳男子の12級嗅覚脱失は職業選択の範囲が制限される等から67歳まで14%の労働能力喪失を認めた事例
横浜地裁 平成29年5月18日
自保ジャーナル2004号
今回は、12歳男子(以下、「被害者」と言います)の12級嗅覚脱失は職業選択の範囲が制限される等から67歳まで14%の労働能力喪失を認めた事例をご紹介します。
被害者は、平成25年7月22日に高速道路で父親の運転する乗用車の後部座席に同乗していたところ、加害者の運転する大型貨物車に追突されるという交通事故に遭い、それによる脳挫傷等が原因となって嗅覚障害の障害を負うことになり、その障害について自賠責12級相当として後遺障害が認定されました。
通常、自賠責12級の後遺障害が認められた場合、労働能力喪失率は14%程度とされることが多いですが、嗅覚脱失については、労働能力に影響を与えないことが多いため、労働能力の喪失が認められないことが多いです。
しかし、裁判所は、以下のとおりの理由から、被害者の労働能力は14%程度喪失しているものと認定し、それを前提として後遺障害逸失利益を算出しました。
嗅覚障害は、「医師の診断どおり、脱失の程度にまで至っており、それが回復する見込みは薄いことが認められ、嗅覚障害については一生涯残存することを併せ考慮すると、労働能力喪失率は14%になると認められる。」とし、労働能力喪失期間については、嗅覚脱失の嗅覚障害は一生涯に及ぶものであること、職業選択の範囲が制限されるということは否定しがたいことに加え、原告には、頭部外傷後の神経系統の機能または精神の障害について局部に頑固な神経症状を残すという後遺障害が残存していることを総合考慮すれば、原告の主張どおり就労可能年数から67歳までの期間とするのが相当である」として、センサス男子全年齢全学歴平均を基礎収入に67歳まで14%の労働能力喪失で認定した。
はじめにご説明させていただいたとおり、嗅覚脱失は一般的に労働に影響を与えることが多くなく、調理師や料理人など限定された職業に就いている方以外のケースでは労働能力の喪失を認めてもらうことが難しくなります。
今回ご紹介した事例は、12歳でまだ就業していない男子が被害者のケースで、職業選択の範囲が制限されるということから就業可能年齢から67歳まで14%の労働能力の喪失を認めたところに特殊性がありましたのでご紹介させていただきました。
保険会社との交渉で労働の力の喪失を認めてもらえないケースであっても、裁判で具体的に労働能力を喪失していることを立証すれば労働能力の喪失が認められるケースもありますので、そのような案件でお困りの際は弁護士にご相談頂くと良いかと思います。
(文責:弁護士 加藤 貴紀)
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。