自賠責併合14級後遺障害を残す35歳男子無職は勤労意欲に乏しく就労の蓋然性があったとは認められないとして逸失利益を否認した事例
奈良地裁 平成30年1月12日判決
自保ジャーナル2018号
今回は、自賠責併合14級後遺障害を残す35歳無職の男性が、勤労意欲に乏しく就労の蓋然性があったとは認められないとして逸失利益を否認された裁判例についてご紹介します。
被害者である男性は、平成23年12月5日午前11時頃、奈良市内の青信号交差点の横断歩道を自転車に搭乗して横断中に、左後方から右折してきた加害者運転の普通乗用車に衝突され、頸椎捻挫、両肩打撲、腰椎捻挫等の傷害を負い、350日実通院し、自賠責保険後遺障害等級事前認定により、併合14級との認定を受けました。その後、加害者の保険会社である甲損保が不当利得返還請求の本訴を請求したため、被害者は、既払い金257万7,717円を控除した、437万8,792円を求めて反訴を提起しました。
本件訴訟では、事故当時に無職であった被害者の男性に後遺障害逸失利益が認められるかが争点となりました。 かかる争点について裁判所は、「被告乙山は、大学院を25歳で卒業した後、本件事故(35歳)までの間、就労経験が全くなく、求職活動も、本件事故までは、数か月に月1回程度、1社に応募するのみで、就職が決まったことは1度もなく、本件事故後に至っては、本件口頭弁論終結時(平成29年12月1日、41歳)までの間、ハローワークにも一切行っていないというのであるから(被告乙山本人)、就労意欲に乏しいものとみるほかなく、上記後遺障害による逸失利益を観念し得る期間(症状固定時から5年程度)において就労の蓋然性があったものとは認められない」として、後遺障害逸失利益の発生は認められないとしました。
後遺障害事案における逸失利益は、被害者の身体に後遺障害が残り、労働能力が減少するために、将来発生するものと認められる収入の減少を言います。そのため、無職者の後遺障害における逸失利益の算定においては、その無職者に労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があることが必要となります。
本件裁判例は、無職者の就労の蓋然性について、就労の経験、事故前の就職活動の程度、事故後の就職活動等から就労の蓋然性が認められるかを判断しています。無職者に就労の蓋然性が認められない場合がどのような場合なのかを考える上で参考になると思い、今回注目の裁判例としてご紹介させていただきました。
(文責:弁護士 松本達也)
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。