8歳男子の高次脳機能障害による後遺障害を2級1号と認定し、将来介護費用を日額9000円で認定した判例
東京地裁 平成30年3月29日判決
自保ジャーナル2025号
今回は、8歳男子の高次脳機能障害による後遺障害を自賠責と同様に2級1号と認定し、将来介護費用を日額9000円で認定した裁判例をご紹介します。
被害者(男性 小学生)は、平成26年3月、自転車で道路を横断中、乗用車に衝突され、外傷性脳損傷等の傷害を負いました。 被害者は、約1年半入通院をしましたが、右優位の四肢麻痺、失語症、構音障害、注意障害、記憶障害、遂行機能障害等の症状を残して症状固定となりました。その後、自賠責では「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」として、2級1号の後遺障害が認定されました。その後、損害賠償額をめぐって裁判となりました。
本件では、特に将来の介護費が争点の1つとなりました。
被害者(原告)は、加害者(被告)に対し、本件事故の後遺障害により、身の回りの動作について多くの場面で見守りないし軽介助を要する状態であり、将来の介護費として、日額2万円、70年間(被害者の平均余命)分を支払えと主張しました。同主張によれば将来介護費の総額は1億3,264万5,760円になります。
被告は、近親者の介護費は日額1,500円が相当と主張しました。
裁判所は以下のとおり判断して、将来介護費を、日額9000円、70年間分認めました。将来介護費の認定額は6,354万769円です。
原告が必要とする介護は声掛けや看視を主としたものであるが、近親者において介護の主たる担い手となるのは母である原告母と考えられるところ、原告母は、本件事故後の原告の入院付添いをしていた時期に教室を閉鎖するまでは、自宅で英語教室を行っていたものであり、今後就労を再開する可能性があること、いずれにせよ原告母が高齢となった時期には職業付添人による介護が必要となることなども考慮すると、近親者による介護と職業付添人による介護を併せた費用として、70年間を通じて日額9000円を認めるのが相当である。
今回の事件では、高次脳機能障害による後遺障害について「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」として2級が認定されていました。遺された症状がかなり重篤で、もはや単身で起居することは出来ず、介護を要するものと判断されたことが前提になっています。このような場合、その将来にわたる介護費用をどのように算定するかがしばしば問題になります。特に、若年者の被害者の場合、その日額単価によって、金額が大きく変動し得ることもあり、重要な問題です。
この点、例えば赤い本には、将来の介護費について「医師の指示または症状の程度により必要があれば被害者本人の損害として認める。職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円」と一応の基準が設けられています。
本件裁判例では、主たる介護者として想定される、被害者の母が付添介護のために英語教室を閉鎖していたこと、今後就労を再開する可能性があることなども考慮されて日額9000円が認定されました。将来介護費の算定例として今回参考になる判例としてご紹介させていただきます。
(文責:弁護士 粟津 正博)
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。