2019/04/15 更新治療費・治療期間

医師の同意のない柔道整復師の骨折等に対する施術は必要性・相当性は認められないと本件事故との因果関係を否認した事例

東京地裁 平成30年1月31日判決 東京高裁 平成30年7月18日判決

今回は医師の同意のない柔道整復師の骨折等に対する施術は必要性・相当性は認められないと本件事故との因果関係を否認された裁判例についてご紹介します。

1 事案の概要

被害者である女性(訴外V)は、平成27年2月1日午前9時28分頃、福岡県北九州市内の丁字路交差点を訴外Vが運転する乗用車に同乗して直進中、左方から進入してきたY運転の乗用車に出合い頭衝突され、右第8肋骨骨折、腰椎捻挫等の傷害を負い、Vの施術をした柔道整復師のXが、被害者からYに対する施術費の損害賠償請求権の譲渡を受けたとして、Yに2万4980円を求め、Yと自動車保険契約を締結する甲損保担当者に、Xの診断を否定する発言をされ、精神的苦痛を被ったとして、慰謝料150万円を求めて訴えを提起しました。

本件訴訟では、医師の同意のない柔道整復師の骨折等に対する施術に治療の必要性・相当性が認められるかが争点となりました。

2 争点に対する裁判所の判断

⑴ 1審裁判所の判断

1審裁判所は、Xの骨折等に対する施術は医師の同意なく必要性・相当性は認められないと否認し、甲損保担当者の発言等に慰謝料発生の違法性はないとXの請求を棄却しました。

ア 肋骨骨折に対するXの施術の必要性について

「柔道整復師法17条は、「柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当てをする場合は、この限りでない。」と規定しているところ、平成27年4月2日以前に医師により肋骨骨折の診断はされておらず、肋骨骨折に対する施術を行うことについて医師の同意はない。そして、前記認定の通りのB病院初診時の画像所見やFASTの結果のほか、同初診時には、腹部に発赤、疼痛が認められるも、呼吸音に左右差はなく清明で、平成27年2月28日付け施術証明書・施術費明細書では、原告による初診時「腰部疼痛大」等とされているものの、同月10日のB病院受診時には、前日より腹部の痛みは軽快しており、今後痛みが増強するようであればCT検査を行うとされるなど、経過観察とすることによりVの生命・身体に重大な危害が及ぶような状況にはなかったと考えられること、合併症を伴わない肋骨骨折については、骨折部に転位が認められても骨折の整復操作は胸膜損傷の危険があり、有害無益であるとの医学的知見があることなども総合して考慮すれば、本件において、平成27年2月2日以前の時点で、肋骨骨折に対する応急手当とし整復操作等の施術を行う必要性・相当性は認められない。」

イ 甲損保担当者の発言等に対する慰謝料請求

「原告は、被告会社の担当者が、柔道整復師である原告の診断を徹底的に否定し、あたかも原告の診断能力が医師より低いかのような発言をしたなどと主張するが、仮に被告保険会社の担当者が原告主張の文言を述べたとしても、その内容や本件の治療経過等に照らせば、同発言は、本件の施術費の支払いについては医師の判断を重視して行う旨、本件事実関係の下における被告保険会社の方針を伝えたにすぎないものと考えられ、柔道整復師である原告の能力等を問題にしたものとは直ちに言えない。上記発言等が、慰謝料を発生させるべき違法性を有するものとはいえず、慰謝料は認められない」

⑵ 高等裁判所の判断

施術の必要性につき、「XがVの施術をした時には、医師による骨折の診断はされていなかったのみならず、かえって、医師は、経過観察として上で、痛みが増強するようであればCT検査で評価するとの治療方針を決定していたから、Xによる上記施術は、医師の治療方針に合わないものであった」とし、「VがD整形外科において骨折と診断されたのは、本件事故から2か月が経過した後であるから、このことをもって、Vが本件事故時に骨折していたと直ちにいうこともできない」として「上記施術は、その必要性・相当性に疑問があるといわざるを得ず、少なくとも、その費用が本件事故との因果関係のある損害に当たるとは認められない」として、施術の必要性を否認し、控訴を棄却しました。

3 最後に

医師の同意がない柔道整復師の施術に対して、裁判所がどのような判断をするのかという点で参考になると思い、今回注目の裁判例としてご紹介させていただきました。

柔道整復師の施術につきましては、近年様々な裁判例が出ております。お悩みの際は一度、当事務所までご相談いただければと思います。

(文責:弁護士 松本達也

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。