2019/07/12 更新後遺障害

事故から3年9か月後に後遺障害診断されたCRPSは、本件事故によって発生した後遺障害と認めることはできないとされた事例

大阪地裁 平成30年11月27日判決

今回は軽貨物車を運転停止中、被告乗用車に追突された原告について、3年9カ月後に後遺障害診断されたCRPSを否認し事故後約6か月での症状固定を認め、後遺障害の残存を否認した裁判例についてご紹介します。

1 事案の概要

原告は、平成25年6月24日午前7時40分頃、大阪府河内長野市内で軽貨物車を運転、停止中に被告運転の乗用車に追突され、頸椎捻挫、腰部挫傷等の傷害を負い、約3年9カ月通院し、腰痛、右下肢のしびれ等のCRPS、うつ状態、頸部痛から14級9号後遺障害(自賠責非該当)を残したとして、既払い金58万5848円を控除し756万7485円を求めて訴えを提起しました。

本件訴訟では、本件事故と相当因果関係のある治療の範囲及び原告が本件事故により14級9号後遺障害を負ったのかが争点となりました。

2 争点に対する裁判所の判断

結論として裁判所は、原告の本件事故から半年後の症状悪化を否認し、約6カ月で症状固定を認め、CRPSの発症を否認しました。

⑴ 症状固定日について

裁判所は、「原告は、本件事故直後は、主として頸の痛みを訴えていたが、事故の約2か月後から腰の痛みを訴え始め、頸椎捻挫、腰部挫傷と診断され、これらの症状は事故の約5カ月後まで著明な変化はなく、平成25年12月4日に症状固定の診断を受けるに至っている。」が、「その後、原告の症状は改善せず、むしろ次第に悪化している。しかし、MRI検査等における異常は認められず、神経症状の原因と考えられる病変は最終的には認められていない。かえってストレス性の影響が指摘されるなどしている」としている。

その上で、「事故直後及び平成25年8月ころの診断である頸椎捻挫及び腰部挫傷との傷病名を前提とすれば、その症状は、受傷直後又は数日後が最も痛みが強く、それが次第に緩解し、受傷後数カ月ないし長くとも1年程度が経過した時点で症状固定に至るのが一般的な回復経過である。このことは、原告が乗車していた車両がいわゆる軽トラックであることにより、追突の衝撃が通常の乗用車よりも大きく感じられることがあり得るとしても同様である。しかし、原告については、平成25年8月ころから通院頻度が高くなり、症状が悪化している様子が窺がわれるもので、かかる経過は、一般的な回復経過と矛盾する。そうすると、この原告の症状が、頸椎捻挫及び腰部挫傷を原因とするものとは考え難い。その症状の原因は頸椎捻挫及び腰部挫傷以外に存在すると考えられるが、その原因は不明というほかなく、原告には頸椎や腰椎の椎間板の変性も認められるから、これらに起因している可能性も否定できない」として、最終的には、「平成25年8月ころ以降の治療及び症状と、本件事故との相当因果関係には疑義があるというほかないけれども、原告は、同年12月4日に後遺障害診断を受けていることを踏まえ、同日までの治療については本件事故と相当因果関係があるものと認める」として、症状固定日を約6カ月と定めた。

⑵ 後遺障害について

裁判所は、「平成26年5月1日の診断結果によれば、右下肢にしびれ等の神経症状は認められるけれども、レントゲンやMRI検査の結果等を踏まえれば、神経症状の原因が本件事故であるか否かには疑問があるといわざるを得ないし、証拠上、その神経症状が将来においても回復が困難と見込まれる障害であるともいい難い。これに加え、自賠責保険の判断も考慮すれば、同日時点で原告に何らかの神経症状が残存していることは認められるとしても、それが、本件事故と相当因果関係のある後遺障害であって、かつ将来にわたって労働能力の喪失を伴う後遺障害であるとは認め難い。」ことに加えて、「原告は平成29年3月16日にCRPSⅠ型との傷病名で後遺障害診断を受けているけれども、そもそも同日に残存している症状が本件事故に起因するものとは認め難いから、原告の症状がCRPSに該当するか否かにかかわらず、原告について本件事故に起因する後遺障害が認められない」とし、「原告にCRPSの診断をしたのは心療内科の医師のみであり、同時期に整形外科や神経内科も受診していたにもかかわらず、両科の医師はCRPSであるとの診断はしていないこと、原告に骨委縮は生じていないことなどの事情からすれば、原告がCRPSに罹患していると認めることも困難である」として、後遺障害の残存およびCRPSの罹患を否認した。

3 最後に

本件裁判例は、裁判所の交通外傷における因果関係の捉え方やCRPSの罹患についての考え方を示した点で参考になると思い、今回注目の裁判例としてご紹介させていただきました。交通外傷における因果関係は相手方から争われることが多いです。お困りの際には、弁護士までご相談ください。

(文責:弁護士 松本達也

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。