50歳女子の自賠責8級認定脊柱変形障害を日常生活動作等に問題ないとして11級後遺障害と認定した裁判例
神戸地裁 平成31年1月16日判決
自保ジャーナル2047号
今回は、自賠責で8級2号脊柱変形障害、同14級9号左足部痛から併合8級の後遺障害認定を受けるも、8級2号脊柱変形、12級13号左足部痛、12級7号右足関節機能障害、12級14号顔面醜状から併合7級後遺障害を残したとして、訴えを提起した結果、自賠責8級認定脊柱変形障害を日常生活動作等に問題ないとして11級後遺障害と認定した裁判例をご紹介します。
本件では、片側1車線道路で乗用車を運転中の50歳の女性(原告)が、対向車線を緊急走行中に路面凍結によりスリップしたW運転、被告保有のパトカーに衝突され、軸椎骨折、左第1~第4中足骨骨折、左足楔状骨骨折、右第5中足骨骨折等の傷害を負い、その結果、自賠責で8級2号脊柱変形障害、同14級9号左足部痛から併合8級が認定されました。本件訴訟では、原告の脊柱変形障害が後遺障害認定の妥当性についてが争点となりました。
原告の脊柱変形障害について、裁判所は下記のように判示し、自賠責の判断を覆し、11級後遺障害であるとしました。
確かに、平成24年4月23日の診断に基づいて丑田医師が作成した後遺障害診断書には、頸部の可動域角度として、回旋が左右とも15度であった旨、平成26年6月20日付の丑田医師による「ご照会状」の回答には、回旋が左右とも25度であった旨記載されており、これらに基づいて上記⑴サ(ア)のとおり異議申立ての手続きでは別表第二8級2号に該当すると判断されている。
しかし、原告は、ハローベストの装着を終えた際に丑田医師によって頸部の回旋状態を確認されたが、特段問題にされておらず、フィラデルフィアカラーを外した平成23年7月頃も問題にされた形跡はなく、丑田医師が作成したE整形外科クリニック宛の紹介状にも頸部の可動域制限に関する記載はない。また、丑田医師は、リハビリを不要と判断しており、実際、原告が希望して通院したE整形外科クリニックにおいて、直ちに頸部のリハビリを開始しなければならない状態ではなく、通院から5か月経過してから頸部のリハビリが開始された。さらに、頸部のリハビリが開始された後、原告は頸部回旋の可動域制限を特段訴えておらず、後ろを向くこともできるなどの改善がみられた。
仮に、頸部回旋の可動域角度が左右とも15度程度又は25度程度であるとか、原告が陳述書に記載し又は本人尋問において陳述するように頸部の屈曲・伸展に強度の可動域制限があるとすれば、日常生活を営む上で著しい不自由・不具合が生じるはずであるが、E整形外科クリニックやGセンターにおけるリハビリの経過において、原告によるそのような訴えはなく、いずれの医療機関においても理学療法士によって日常生活動作は問題ないと評価されている上、これに沿うように、原告は、平成23年9月頃からパン屋の店頭で接客業務に従事している。
丑田医師作成の後遺障害診断書及び平成26年6月20日付けの照会書に対する回答書に記載された可動域角度は、以上の経過に矛盾するような内容となっているところ、自動と他動で同一の角度となる部分があるから、同診断書及び同回答に記載された頸部回旋の可動域角度は、自動と変わらない方法で測定された疑いが残る。この点を措くとしても、同診断書及び同回答書に対する回答に記載された頸部回旋の可動域角度は、上記の通り、上記⑵ア(ア)bの原告の治療経過・症状経過と明らかに矛盾することから、直ちにこれを採用することはできない。
弁護士のコメント
本件裁判例は、自賠責の等級認定が出ている場合であっても、裁判上判断が覆り得ることを示した重要な裁判例です。自賠責保険の認定結果は裁判所の判断を拘束するものではなく、訴訟提起前にリスクについてはしっかりと検討するべきであると再認識した裁判例でした。
(文責:弁護士 松本 達也)
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。